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犬ブルセラ病

犬ブルセラ病から愛犬を守るには

株式会社AHB
国際小動物医学研究所 
BioPlus
筒井敏彦

はじめに

数年前、大阪府和泉市の犬の繁殖コロニーで、犬ブルセラ病による流産が多発して大きな社会問題となった。
本病は,1966年アメリカのビーグル繁殖コロニーで流産が多発し(1662年頃から),流産胎子および母犬のおりものからグラム陰性の小桿菌が検出された。のちに(1968年),本菌がブルセラ属の新菌種としてBrucella Canis(現在ではBrucella melitenis biovar Canis)として広く用いられるようになった。

その後,ビーグル繁殖コロニー以外の家庭犬にも、広く本菌の感染があることが明らかにされた。また、本菌は人への感染の危険性もあることから、公衆衛生上の問題としても注目されている。
 
ここでは愛犬家が、本病をよく理解し、愛犬を本病から守る一助になればと筆をとった。

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ブルセラ病

ブルセラ病は,ブルセラ属の細菌感染によって起こる人,家畜,犬,猫,野獣の病気である。
その主なものとして

  • 牛ブルセラ病(Brucella melitenis biovar Abortus),
  • めん羊・山羊ブルセラ病(B.m.b.Melitensis),
  • 豚ブルセラ病(B.m.b.Suis)
    などがあり,かつては世界中に流行したが,ワクチン接種(牛)や摘発,淘汰によって先進国ではまれな疾病となった。

これらの家畜のブルセラ病と犬ブルセラ病の菌の性状は,いくつかの点で異なっている。牛ブルセラ病に人が感染すると,全身感染の兆候が著しく,発熱などの急性症状を呈する。しかし,犬ブルセラ病に人が感染しても,内毒素を欠いている菌のため、全身症状をほとんど現さない。
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我が国における犬ブルセラ病の発生の歴史

  • 我が国では、1971年から1972年にかけて、ビーグル繁殖コロニーで流産が多発し、流産胎子からB.m.b.Canisが分離され、これが犬ブルセラ病の最初の国内における確認例であった。アメリカで犬ブルセラ病が明らかになってから、わずか5年後であった。しかし、この感染源については、アメリカから輸入した種雄犬が強く疑われた。

  • 1973年12月には東京の大学で飼育されている実験犬(雑犬)2頭に流産が見られ、検査の結果、犬ブルセラ病であることが判明した。これは、我が国で、一般に飼育されている犬においても、犬ブルセラ病が広がっていることを示す最初の報告であった。

  • その後、全国各地において、犬ブルセラ病の調査(犬ブルセラ血清凝集反応)が行われ、各地で抗体価の高い犬(陽性犬)が存在することが明らかとなった。

  • 例えば、1979年に名古屋地区で調査された飼い犬の陽性率(抗体価×160以上)は19.1%、尾張地区11.5%、岐阜・滋賀地区で4.4%であった。最近での調査成績が明らかにされていないが、国内飼育犬の陽性率が数%ではないかと考えられる。

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犬ブルセラ病

  • 妊娠55日前後に前兆のないまま突然流産
    写真1:犬ブルセラ病で胎子・胎盤が変性してタール状となり子宮内を満たしている
  • 犬ブルセラ菌に感染した犬が妊娠した場合、妊娠55日前後に前兆のないまま突然流産する。このときの流産胎子は、生活力はないものの生きている場合が多い。まれには、妊娠早期に流産するものもある。また、胎子が排出されずに子宮内で変性し、タール状になるものもある(写真1)。
    写真2犬のブルセラ病での流産中の子宮
  • 胎盤は、正常分娩のものとは異なり、子宮との結合部が細菌によって徐々に犯されて壊死し、子宮と結合できなくなって流産する(写真2)。
写真3犬ブルセラ病のため胎盤が壊死し子宮との結合ができなくなった状態

少数例ではあるが、胎水(尿水、羊水)が異常に多くなる例も認められる(写真3)。

  • 流産犬は、一般状態に異常は認められず、その後性周期、排卵数、受胎率に問題がない場合が多い。
  • 雄犬の感染 
    雄犬が感染した場合は、症状を現すまでに長期間を要して、
    • 精巣上体炎、
    • 前立腺炎、
    • 陰嚢の潰瘍が発症する。
  • その後、精巣は萎縮して無精子症となる。
  • 種雄犬が本症に感染しても、交尾能力、造精能が減退するまでに数年を要するため、その間、雌犬を妊娠させることは可能であるが、妊娠末期に流産する。
  • 感染しても全身症状は示さない
     犬ブルセラ菌は、内毒素を持たないため、感染しても全身症状を示さない(ごく稀に椎間板脊椎炎、内眼球炎、ブドウ膜炎を発症)が、雌雄ともに生殖器系の症状が著明である。
    • また、犬ブルセラ病では、長期に血液中に細菌を保有し、唾液、尿、糞中に細菌を排泄する。雄犬では精液中からも犬ブルセラ菌が検出される。
    • 犬ブルセラ病が発生したコロニーの雌犬における各臓器からの菌の検出状況は、
      • 肝臓、
      • 脾臓、
      • 腎臓、
      • 子宮、
      • 骨髄、
      • 各リンパ節、尿などあらゆる臓器から検出される。

        また、妊娠犬では、胎盤、胎水、乳汁、胎子の各臓器からも検出され、胎子への感染も明らかにされている。
         犬ブルセラ菌は、あらゆる経路で感染を起こすと考えられる。すなわち、
      • 経口、
      • 経鼻、
      • 経腟、
      • 経眼粘膜、
      • 交尾などである。
        しかし、自然感染の場合は、経口と交尾による二つの感染経路が問題となる。
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犬ブルセラ病の診断

写真4犬ブルセラ菌の真珠様集落

そして、抗体価が×160以上を陽性、×80を疑陽性、×40以下を陰性と判定する。

  • 海外には、血清凝集試験より簡便なスライド凝集試験法があるが、国内では販売されていない。犬ブルセラ病の確定診断には、流産胎子、胎盤、血液などをトリプトソイ寒天培地で培養して確認する必要がある。犬ブルセラ菌の集落は、半透明、灰白色で真珠様(写真4)の数mmのもので発育までに1週間近くかかる。

犬ブルセラ病凝集価測定

犬ブルセラ病の治療

  •  犬ブルセラ病の治療を行った研究者は、同じ結論に達している。すなわち、本症の効果的な治療法は存在しない
    ''-抗生剤の(テトラサイクリンとストレプトマイシンの併用)3〜4週間投与で、血液中に細菌が見られなくなり、血清凝集価も低下するが、投薬を中止すると数か月後に再び細菌が増殖する。
  • 抗生剤が投与されている間は、血液中の細菌は見られなくなるが、細胞内に進入している細菌には、抗生剤が到達することができないため効果がない。
  • このため、感染犬は、治療が困難なため淘汰が第一の選択肢である
  • 完全に隔離ができる場合においても、雌犬は卵巣・子宮を、雄犬では精巣を摘出し、定期的に抗生剤の投与を一生続けて、菌の排泄を押さえることが必要となる。

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犬ブルセラ病の予防

  •  本症に有効なワクチンは開発されていない。このため、予防は、感染した犬との接触を避けることが重要である。しかし、本症に感染しているかどうかは、外見上判断することは困難なため、むやみに他の犬に近づけないことが重要となる。
  • 私が勤めていた大学では、学内で飼育している犬については、定期的(2~4ヵ月おき)に犬ブルセラ病の血清凝集反応で抗体価を検査している。
  • 学外から実験犬を導入する場合は、一時隔離して犬ブルセラ病が陰性であることを確認している。
  • また、学内の関係者は家庭で伴侶動物として犬を飼育している方が多いため、学内の犬に触れる時は、充分に消毒することが重要である。
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繁殖コロニーにおける犬ブルセラ病の予防とコントロール

  •  犬ブルセラ病になると、犬の繁殖能力は本質的に終了するので、ブリーダーにとって致命的な疾病である。また、本病は潜行性で、治療が成立せず、予防注射もない。まず、自分の繁殖コロニーが、犬ブルセラ病に汚染していないことを血清凝集反応によって確認する。
  • 繁殖場内で妊娠末期に流産がなく、正常に分娩している状況であれば、まず心配がないと考えられるが、血清凝集反応を実施して陰性であることを確認することが重要である。特に、流産の経験のある犬がいる場合は、云うまでもない。

繁殖コロニーが犬ブルセラ病に汚染されていない場合

  •  自分のコロニーを犬ブルセラ病から守る場合、外部からの犬の導入、外部の犬との交配は、これらの犬が本症に感染していないことを血清凝集反応で確認することを条件とする。
  • もちろん種雄を所有している場合は、交配希望の相手雌が陰性であることを確認してから交配をさせる。
  • 血清凝集価測定をしないで相手を信ずることは絶対にさける。
  • 基本的には外部の犬との接触を避けることが重要で、なおかつ、6ヵ月に一度はコロニーの犬ブルセラ凝集価測定を定期的に実施する。

  • 血清凝集検査および診断はバイオプラスで実施いたします

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繁殖コロニーが犬ブルセラ病に汚染されている場合の浄化法(Bio Plus法)

  •  コロニーが犬ブルセラ病に汚染されている場合は犬ブルセラ病凝集価測定を繰り返し実施し陽性犬をコロニーから排除し、陰性犬のみのコロニーを組み立てる。

犬ブルセラ病の浄化法および犬ブルセラ病フリー犬舎の維持法(Bio Plus 法)

発行2013/05/08

  • 解説
    犬ブルセラ病は、一般症状を示さないが、妊娠犬では前兆のないまま妊娠末期に突然流産する。流産犬は、いたって元気で多数の犬ブルセラ菌を含んだオリモノを排出し、これが感染源となる。
     犬(だ液、糞、尿、精液、乳汁など)から犬への感染力は強く、感染犬の治療法は確立されていない。このため定期的に犬ブルセラ病凝集価を測定して、自らの犬コロニーを守る以外に策はありません。

1.犬ブルセラ病の浄化法

  • A.犬ブルセラ菌に汚染されていないコロニー
  1. コロニーの全頭におけるB.canis凝集価が陰性の場合は、犬ブルセラ病フリー犬舎と判断する。
  2. コロニーに擬陽性犬が存在した場合は、擬陽性犬について≒2週間後の2回目検査で抗体価の上昇のないことを確認して、犬ブルセラ病フリー犬舎と判断する。
  • B.犬ブルセラ菌に汚染されたコロニー
  1. コロニーからB.canis陽性犬を排除し、擬陽性犬と陰性犬は個別ケージに収容し、犬舎を消毒する。出来れば、陽性犬と交配した相手は、排除する。
  2. 陽性犬を排除した以降は、B.canisに潜伏感染している犬を、いかに早く発見して排除するかに努める。すなわち、陽性犬を排除した日から≒2週間後に、全頭について2回目の検査を行い、陽転したものは排除する。
  3. 2)から約1ヵ月後に全頭について第3回目の検査を行い、2)と同様の処理を行う。これまでの処理を忠実に実施していればコロニーは、清浄化されている。
    犬ブルセラ病の浄化法図解
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2.犬ブルセラ病フリー犬舎の維持法

  • 犬ブルセラ病フリー犬舎は、外部から犬ブルセラ菌を持ち込まない限り安全である。それを維持するためには、以下の点を厳守する。
  1. 外部犬との接触を行わない。
  2. 交配の依頼があった場合は、相手の犬が犬ブルセラ病が陰性であることを条件とする。
  3. 精液を提供していただく場合も、雄犬が犬ブルセラ病陰性であることを条件とする(精液中に犬ブルセラ菌が存在するため)
  4. 新しい犬を導入する場合は、犬ブルセラ病が陰性(≒2週間隔で2回検査)であることを確認する。
  5. 犬舎の定期的な消毒と犬舎入口には常に消毒槽をもうける。
  6. 1~5)を忠実に守っている限り問題はないが、出来れば種雄犬だけでも年1回の犬ブルセラ病血清凝集価測定を実施する。
  7. 流産が起こった場合は、ただちに(当日の血液)犬ブルセラ病血清凝集価を測定する。 目次へ

人への感染

  •  犬ブルセラ菌の人への感染は、少数例ではあるが毎年報告されている。感染者は犬のブリーダー、ペットショップの関係者が多い。
  • また、感染した人は、臨床症状をほとんど示さず、抗生剤の投与で早期に治癒している。
  • 本病で流産した犬の胎子、胎盤、胎水には多数の犬ブルセラ菌が含まれているため、取り扱いには充分な注意が必要となる。
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